2008年 07月 27日
モーツァルト/H.C.ロビンズ・ランドン
「モーツァルト/音楽における天才の役割」(H.C.ロビンズ・ランドン/石井宏訳/中公新書)。
モーツァルトに関して知っていることは、義務教育の音楽の時間で教わる程度で、小さいころヨーロッパ各地を旅し、大人になってからも求職活動で旅し、多くの名曲を残し、夢かなわず死んだというくらい。
彼の人生に対する今までの常識とされる知識を持っていないので、ここに書いてあることの何が新しくて分かりやすいか、わからない。ただ音楽を聴く上で「西洋音楽史」同様、小さな偏見なしに聴くようになれる。
交響曲、協奏曲、セレナード、ディベルティメント、教会音楽、室内楽、予約演奏、楽譜の出版など、なぜ、誰が作曲を依頼するのか、今とちがって曲はどうとらえられていたのか、知らなかったことがたくさんあるので参考になる。
モーツァルトは現在日本でよく使われるところのアイドルの「アーチスト」ではない。超高層ビルでも建てられる建築家に近い。音楽のプロ、職人であることがわかる。それに彼も普通の人と同様に音楽家に尊敬する人もいた。一生を通じて人の曲の写譜をして勉強していたらしい。オペラを劇的に改革したのもかれだそうな。
ただ、ベートーヴェンがナポレオンやその時代と一緒に語れることがあるわりにはモーツァルトは時代と語られることは少ない。モーツアルトが死んだのは1791年。フランス革命が1789年だから、モーツァルトは革命前の社会情勢の空気の真只中に生きていたはず。
モーツァルトが仕事に就けなくても不思議はない。革命がおきようかという時に、天才坊やの就職どころではない。また、彼ほどの天才ならそういう新しい時代の雰囲気が音楽にないはずがない。自由を好む音楽家なのだから。「フィガロの結婚」の成功も貴族へ対する庶民の気持ちの反映ではないか。そんな雰囲気を漂わせた音楽家を貴族が雇うはずはない。
小さいころから旅をした天才が土地の空気、人々の雰囲気を感じないはずはないだろう。たとえ彼の手紙に1行も書かれなくてもそれは彼のからだのなかにしみ込んで、今まで誰も書かなかった音楽を作ろうとすれば、それは影響してくるではないか。
モーツァルトは、時代の新しい空気をかもし出しながら、古い体質の人間たちに気に入られなければならないという矛盾した人だったのではないか。革命前のばらばらにある出来事の断片をひとつの流れにして照らしてみれば、庶民のヒーローになりそこなった天才としての物語があるかもしれない。
by teccyan1
| 2008-07-27 09:39
| 本
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